テイトメー サカサマサカサ1章/只野空気

あらすじ

 ある日、白金祐斗が出会った少女・黒須美穂、彼女は逆転現象<サカサマサカサ>――自分が思ったことと反対のことをしてしまう――という能力をもっていた。
 美穂が祐斗のクラスに転校してきた日、同級生に手を触れられそうになり、美穂はその生徒を突き飛ばす。すると突然、窓ガラスが割れてその生徒がいた場所に散らばった。美穂は生徒を助けたとして感謝される。
 帰路で妹と鉢合わせ、美穂が隣に越してきたと祐斗は知る。そして公園に立ち寄ったとき祐斗はふと昔よく遊んだ「あーちゃん」という幼馴染のことを思い出すのだった。





テイトメー(このブログでのレビュー)

 この作品は、妹との和みシーンから始まり、読みやすさが演出されている。ただ「妹を無視し続ける兄」という構図が少し伝わりにくいかもしれない。また作中人物の名が2話の後半で登場するため、多少の困惑があるかもしれない。
 さて、プロローグでは作中世界における異能者の存在とその種類について述べられているが、タイトル「サカサマサカサ」とはヒロインの能力のことである。その能力を有する黒須美穂は、自分が感じたこととサカサマのことをしてしまう。
 物語中にはいくつも伏線が張られており、事前の設定がなされていることを示している。1章を読むだけではまだ謎のシーンもあるが、ストーリーを読み進めていくことで明かされていくことだろう。





テイトメーとは、このブログでのレビューのことを指します。完全な造語なので、どこの辞書にも載ってないし特に意味もなかったりして。

オンヌ
<オンヌとはテイトメー、つまりTATEMAE(たてまえ/建前)に対するHONNE(ほんね/本音)です>

 僕はtxtデータは印刷して読むようにしているんだけども、紙面に写して1章を全体的に見てみると、1話と2話がほとんど意味をなしていないのがわかる。ヒロインとすぐに出会えばいいものを、なぜか妹とのシーンが続くのである。ひょっとすると1・2・3話は統合されていたが、4話以降と比べると長くなってしまったために分割されたのかもしれない。それに1話はキャラ名も出さず、主人公が妹を徹底的に無視するという不可思議なシーンとなっている。1話めでこれだと、「主人公はまともなコミュニケーションがとれないキャラじゃないか?」と疑問を生ませる。掴みをとるのが苦手な僕が云うのもなんだが、完全に掴みには失敗していると思う。1話が他の話に比べて突出して煩雑である。

 またサカサマサカサという能力も難しい。「ヒロインが意図することとは別のことが起きる」という能力であるが、これが「話したくない」と思っているのに「話してしまう」という程度なら問題ないが、「馬鹿と話したくない」と思った場合は、「馬鹿と話してしまう」のか、それとも「馬鹿でない人間と話したくなくなる」のか、ということである。これは「話したくない」という否定的な感情が単一であるから、能力が発揮される場合は「話したくない、の逆をする=話してしまう」となるが、「馬鹿と話したくない」を否定しようとすると「馬鹿」と「話したくない」とに分けることができるため、「馬鹿の逆=馬鹿でない人間」と「話したくない、の逆=話してしまう」という2つの可能性が現れてしまう。これは設定の方法によっては逃れることもできるかもしれない。

 だが、既に失敗していると見られる箇所がある。たとえばこの箇所。

  自分が忌み嫌う能力の名前なんか考えたくは無かったが、思いついたのでそう呼んでいる。

 4話にて美穂が自分の能力について語るシーンでのことである。心底から「考えたくない」と思うなら「考えない」と能力が発揮されて、美穂が自分の能力にサカサマサカサという名をつけてしまったことが、能力の説明と矛盾する。ひょっとすると1章以降で説明がつくようになっているのかもしれないが、この問題を広げていくと「美穂が心底から思っていることってなんだ?」となる。心底イヤだと思っていることは能力のせいでしてしまうが、少ししかイヤと思っていないことは能力が発揮されないからしないで済む。つまり美穂がイヤだと考えていることでも、しないで済んでいることが数多くあることになる。実はまだ問題があって、それは「運命への抵抗」にも繋がってしまうことなんだが、それはまた後日。

テイトメー サカサマサカサ2章/只野空気

あらすじ

 テストが始まり、成績不振な祐斗とその友人の藤村と恋は、美穂に勉強を教えてもらうことになる。
 その日の帰路、美穂は自分の能力の確認をして祐斗にケガを負わせる。2人は警官と出会うが、警官は最近よく発生していたネームレス(能力者)殺しの犯人だった。一般人を殺してネームレスと勘違いさせていた警官を前に、美穂は気絶する。美穂を抱えて祐斗は逃走する。
 後日、ケガをした祐斗に驚いて、前に下駄箱でぶつかった少女・西条赤が現れる。
 そしてテストの結果が返ってくるが、祐斗は赤点をとってしまう。美穂は自ら教師役を買って出る。その結果、祐斗は再テストで満点をとる。美穂が「赤点をとらないでほしい」と願ったにもかかわらず……




テイトメー

 この章の末では、美穂の能力への変化もしくは矛盾が発生する。美穂は「赤点をとらないでほしい」と願ったのだが、祐斗は再テストで満点をとったのである。次章へと繋がる謎としては申し分ない。
 そして警官……もとい殺人鬼との対峙である。「ネームレス排除をしている警官がいる」とされていたが、殺していたのは一般人であり、その一般人をネームレスを偽って報告していたのである。その直前、美穂は祐斗に「電柱に頭をぶつけろ」と考えたにもかかわらず、そうならなかったことに疑問を感じて、「こけるな」と願う。そしてこけた祐斗は胸にケガを負ってしまう。さらに美穂は警官との対峙で気絶してしまい、祐斗に助けられる顛末となる。祐斗の再テストで教師役を買って出た美穂の心中にあったのは、感謝だろうか? それとも引け目だろうか? どうやら美穂の心中も、少しは変化があったようである。


オンヌ

 まず対峙の直前の、祐斗がケガを負うシーンである。美穂が自分の能力がうまく働いていないように感じたため、確認のために祐斗で試して倒れさせてケガを負わせるのだが、なぜこけて「胸」にケガを負うのか、説明が一切ない。普通は手や肘、膝、顎などじゃないだろうか? なぜ胸にケガを負い、「血がにじむ」のだろう? 服に血がにじんだとするなら、なにか突起物が胸にあたったりしないと流血はしないだろう。しかしその説明はない。不完全燃焼である。

 そして西条赤の登場に関して。髪が赤く、祐斗とは下駄箱での因縁がある、とのこと。記憶を辿って7話を読み返してみると、女生徒とぶつかるシーンがある。そして以下の文へと続く。

[俺の名をつぶやいた目の前の女子は、それだけを口にして、顔を真っ赤にしながら、顔と同じ色の髪をなびかせて走り去っていってしまった。]

さすがにそりゃ煩雑でしょう……? まず↑の文で、「女生徒=赤い髪」と定義せずに「女生徒≒赤い髪」としている。それで今回の西条赤の登場で「赤髪」としても、わかりにくい。なぜ7話の時点で「女生徒の髪は赤かった」みたいに明言しなかったのかがわからない。明言することでデメリットがあるのならわかるが、デメリットがあるようには思えない。



<ちょっと一言>
すべてを見たい人と、いいところだけ見たい人とがいると勝手ながら判断して、傍目にはいいところだけ見えるようにした。すべてを見たい人だけが少しの労力を駆使すればいいと思う。なにも見たくない人はそもそも、ここに見に来ないだろうしね。