ノロイ

 映画「ノロイ」を見た。フェイクドキュメンタリーは好きだと自負しているけれど、この映画はイマイチだった。日本版ブレアウィッチプロジェクトといわれてるらしいけど、ブレアウィッチはあまりにも嘘臭そうで見てない。




−−−以下ネタバレあり−−−












 まずこの映画の欠点は、「謎が完全に解き明かされない」ことだと思う。これは「すべての謎が明るみに出る」ということじゃなく、「謎の主要な部分がどういったものか解明される」ということ。たとえば「リング」「らせん」なら、『貞子がビデオを用いて人を殺す』というのが主要。しかしこの映画では「カグタバってのがいて、なんか呪ってるらしい」ぐらいにしかわからない。誰が呪われて、呪いの内容はどんなもので、最終的にどうなったのか。それがぜんぶわからない。
 「誰が呪われている」という点では、最後に少年がカグタバの化身か憑依されている存在だから除外するとして、小林雅文(主人公の太ったオジサン)が行方不明になったこと、小林の自宅が火事にあってその妻が死ぬこと、君野みどり松本まりかの上の部屋に住んでた後輩)たちの集団自殺、矢野加奈(超能力者の少女)の父親が母親を刺殺する事件、こういったもので安否がわからなくなったり死んだりしているが、それが呪いによるものかどうか判然としない。堀(挙動のおかしいアルミ男)が死んだのは、少年が関係していると見れば呪いである可能性は強いと思うけど。
 「呪いの内容」、これもよくわからない。松本まりかが発狂したり声が野太くなったりするのは呪いのせい? ラストの堀が少年を連れ去ったり奥さんが焼身するという「意志を操作できる」というのも呪い? 鳩が窓にぶつかってきたり、映像に割り込んできた「カグタバの仮面」のような「もののけ姫に出てくる木霊」のような複数の顔、巻物に出てきたような女性の周りに木霊のようなものがまとわりついている様子、こういったのは呪いであるとみても差し支えないと思う。
 「最終的にどうなったのか」。これは小林のオジサンが行方不明になったりして生死がどうなっているか、ということではない。呪いは継続しているのか、ということ。映像内では石井順子がカグタバを召喚し、彼女が死んだことで呪いは絶えたと思いたい、という形で小林の希望をまとめている。この事の発端であるカグタバ召喚も石井順子の死で呪いが絶えるというのも推測にすぎない。呪いが絶える、という点では少年が生きていて堀が死んだということで、おそらく継続していると思われる。
簡単にいうと、なにもハッキリとしていない、ということ。ラストシーンで少年がキーパーソンであることがわかるだけで、呪いに関する諸々がぜんぜんわからない。作品としては未完成のイメージが強い。

 後はカメラワーク。フェイクドキュメントという観点から、カメラがいわゆる映画用やテレビ用のそれとは違うもの(8mmとかなんかな? カメラには詳しくないもので……)だからか、見づらかった。特にアップを多用していて、細かな部分が伝わらない。堀の自宅や、ダム付近の森のなかで彷徨う映像、石井の家に侵入したときの映像など、間取りどころか部屋の広さすら把握できない。仮想の地域ということだからロケ地を特定されると困るということかもしれないけど、モヤモヤしっぱなしだった。鬼祭の映像が同じくアップを多用していたから、この映画内映画(※1)「ノロイ」で小林と同行していた宮島カメラマンの撮影の仕方と同じってことで、本来は鬼祭の映像は宮島と別人が撮ってあるはずだから違和感が生まれる。
 小林まりかとアンガールズが出ていたバラエティ番組や矢野加奈がフィーチャリングされた超能力番組などの完成度があまりに低かったのも興を冷めさせた。「見所はここじゃないからテキトーでいいっしょ」みたいなのを感じた。
 それと鬼祭の映像とか巻物とかにエイジング処理をしてあるっぽかったけど、巻物が本物に見えたのに対して映像はイマイチだった。ホラー系の創作動画を見るとたまにエイジング処理(古臭く見せるために、黒いノイズや縦棒のノイズが入ったりする)があるけれど、「そういう工夫をしてるんだな」っていう制作サイドの努力が見えることはあっても、本当に古いと思わせるような効果はあまりないように思える。


 唯一褒められる点があるとすれば「雰囲気」。ホラーの雰囲気を壊すことなく、最後まで突っ走った。なにも考えずに見ればおもしろい映画だと思います。


 あと石井順子役の女優さんはスゴイと思う。「なんでそんな言い方ができるんだよ!」というまったくストーリーからしても不可解な言動を、あの形相で言われるとなにかしら意味があるんだろうと思えてしまう。彼女が死んだっていうのも映像じゃぜんぜんわからなかったけどね。




※1……この映画「ノロイ」は、小林が失踪した後で公開されたという設定であり、小林が取材して完成させた「ノロイ」を紹介するという形になっている。だから小林が完成させたほうの映画「ノロイ」は、この映画「ノロイ」という映画のなかで紹介されている映画、つまり映画内映画ということになる。








−−−ネタバレ終わり−−−