体言止め

My Chemical Romance の Early Sunset Over Monroeville を聴いていて、ふと体言止めについて考えた。曲中で体言止めが多用されている部分は以下。


Up and down escalators, pennies and colder fountains
Elevators and half price sales, trapped in by all these mountains
Running away and hiding with you
I never thought they'd get me here
Not knowing you'd change from just one bite
I fought them all off just to hold you close and tight


特に「Up and down」から「mountains」がそれに当たる。
直訳するとこうなる。


Up and down escalators, pennies and colder fountains
上り下りするエスカレーター ペニーと冷たい泉
Elevators and half price sales, trapped in by all these mountains
エレベーターと半額セール すべての山に騙された


どういうこっちゃ、と思う。何度も曲を聴いてはいたが、ここの歌詞がよくわからなかった。
ちなみにこの曲、始めはほのぼのとした曲調で始まるが、上の節を過ぎると急に哀しい曲調に変わる。その転調がとても痛ましく聴こえる曲で、僕はずっと好きでいる。

この曲を大まかに知るには、歌い出しの2文と転調後を見ればだいたいわかる。


Late dawns and early sunsets, just like my favorite scenes
遅い夜明けと早い日暮れ とても好きな瞬間
Then holding hands and life was perfect, just like up on the screen
腕を組めていれば完璧だった まるで映画みたいに


転調後の歌詞が……


But does anyone notice?
でも誰が気づく?
But does anyone care?
誰が気にする?
And if I had the guts to put this to your head...
これをキミの頭に突きつける勇気があったら……
But would anything matter if you're already dead?
でももうキミが死んでいたら?
And well should I be shocked now by the last thing you said?
僕はショックを受けるべきなのかな? キミが最期に残した言葉に
Before I pull this trigger,
引き金を引く前に
Your eyes vacant and stained...
キミの目は空ろで濁っている……


となっている。
キミと呼ばれる人はなぜ死んだのか、誰が殺したのか、正直なところ僕レベルの英語ではよくわからない。要は女は死んだのであって、歌い出しの遅い夜明けと早い日暮れを見ているのは男一人であって、腕を組めていれば、というのは隣にその女がいれば、ということだろう。
すなわち、問題の体言止めの部分は回想なのである。景色を見ながら男が思い出しているのである。
その転調前の部分を訳すると……


Up and down escalators, pennies and colder fountains
上り下りするエスカレーター ペニーと冷たい泉
Elevators and half price sales, trapped in by all these mountains
エレベーターと半額セール すべての山に騙された
Running away and hiding with you
キミと逃げて隠れた
I never thought they'd get me here
こんなことになるとは思わなかった
Not knowing you'd change from just one bite
たったひとつの出来事でキミがこうなるなんて
I fought them all off just to hold you close and tight
僕はキミを強く傍に抱き寄せようと すべてと戦った


語学レベルが低いため、最後の行の「戦った」がなにとなのかはわからない。なにかしらマフィアみたいな男と女を追っている者かもしれないし、運命という超自然的なものかもしれない。
この曲は、死んだ女との出来事を男が回想する歌である。そしてずっと僕がわからずにいた部分が、例の体言止めの句である。

この句の意味が、ふとわかった。


Up and down escalators, pennies and colder fountains
上り下りするエスカレーター ペニーと冷たい泉
Elevators and half price sales, trapped in by all these mountains
エレベーターと半額セール すべての山に騙された


ショッピングモールのなかで、男女がエスカレーターを何度も上っては下りて、色んなところを見回っている。そして噴水で、映画をまねて小銭を投げる。エレベーターで移動して、半額セールで買い物をする。店は在庫の山を処分したかったのであって、2人は商品を買って騙されてしまった。

こういうふうに考えると、男女2人のほのぼのした愛らしさが垣間見える。さらにいえば、半額セールに騙されても、2人は一緒にいれば悔しくなんてなかったのかもしれない。お互いに舌をペロッと出して、「やっちゃったね」なんていっていられれば幸せだったかもしれない。
それでも女は死んで、男は一人になってしまった。そういう歌だと考えると、この体言止めの部分に2人の楽しかったことが凝縮されていることになる。

歌詞というのは、ふわり(譜割り)というのがあって、曲に詩を合わせないといけないし、小説ほど長くは文字を詰め込めない。そこで体言止め、とくにほとんど名詞だけにすることで、ギュギュギュッと凝縮したのかもしれない。

ちなみに以上はすべて僕の考えである。この歌詞が絶対にこの意味で間違いない! だなんて思わないし、捉え方はいくつもある。けどこう考えると、「短い言葉で伝えること」や「体言止めの使い方」が理解できるかもしれない……ということである。