レビュー 桜の森の満開の下/坂口安吾


あらすじ

 桜は人を狂わせる。
 山に、とある山賊がいた。山賊は人を襲い、夫婦の夫を殺して女を女房にした。8人めの女房を手に入れたとき、その女は他の女房を山賊の男に殺させた。
 男は都を嫌っていた。しかし女の望みで都に移り住む。女は男に人を殺させ、首を持ち帰らせて首で遊んだ。男は都に倦んで、山に帰ろうとする。女に連れて行ってくれと哀願され、男は女を背負い山に戻る。
 山の桜の下で、ふと男は気づく。女が鬼だと。男が鬼を殺すと、それがやはり元の女だと思い至る。男は孤独を知るが、女は桜の花のなかに消える。そして男の姿も消えた。




 坂口安吾は、初めて読んだ。以前、偶然見たアニメに「青の文学」というものがあり、日本文学を原作としたアニメであった。これのなかで僕が未読であった作品が、この「桜の森云々」であった。
 冒頭から桜は怖いものであると、世間一般の「美しい/キレイ」という見方から外された物言いで、そういった切り口もあるかと感嘆した。しかし女が男にとってよくない人間であることはわかるし、そういった先の読める失望感はあったが、おそらくわかっていても別段どうということはないんだろう。
 序破急のうち、急部にあたる山への帰路のシーンにて、女が鬼に変わった瞬間、気持ちが萎えるのがわかった。しかし山賊の男が女の首を絞めた後の、この文でグッときた。


  彼は女をゆさぶりました。呼びました。抱きました。徒労でした。


 徒労、という言葉が重みをもっている。
 坂口安吾に関しては、人物背景もなにも情報をもっていない。ある作者の作品を読んで、「もうこの人はいいな」と見限ることは少なくないが、坂口安吾は次に繋げたいと思える作家だった。